北欧の若き環境活動家であるグレタ・トゥーンベリさんは、もはや説明が不要なぐらい有名な16歳少女です。少女というよりは猛女みたいな感じになっていて、これがこのまま40歳まで成長を続ければ凶暴なマツコ・デラックスみたいな仕上がり具合になってしまうのでしょうか。

 凄い形相をしながら各国指導者の環境無策っぷりを国連総会の壇上でなじるグレタさんの勇ましい姿には「あ、こういう感情的な感じ、うちのお袋に似ているな」と程よい共感を覚えました。

その過激な発言に賛否両論

 もっとも、世界ではこのグレタさんの過激な言論をめぐって賛否両論です。環境問題も専門にするジャーナリスト・志葉玲さんは、グレタさんがいまここにいる価値は「一切の妥協のない、極端とも言える言動で、各国で温暖化防止について議論を呼び起こしている」からであると喝破しました。世界的な環境問題に人類が対応していくには、国を超えてみなが行動を変えるきっかけが必要で、それこそがグレタさんだということでしょう。

ホリエモンよりグレタさんは「760万倍賢い」―温暖化防止「飛び恥」の衝撃(志葉玲)
https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20191213-00154732/

 名指しで馬鹿にされている堀江貴文さんのほうも、科学技術が進展することで環境問題は改善するのだ、グレタさんは方向性を間違えているという話をしていて、まあこれはこれで正論です。

ドイツ鉄道公式まで「ファーストクラスに座っていた」と発表

 世界で起きているグレタ批判を見てみると、たいていにおいて環境問題という大テーマを未成年の少女に叫ばせる政治的汚さを指摘する声は大きくあります。要は、ヒステリックな少女に叫ばせれば、それを批判する人は少女をイジメているように見える、この時点でテーマを冷静に議論する資格を欠いていると言いたいのでしょう。問題は地球の環境をどうするべきかなのに、こんなキワ物が出てきて喚き散らしたら少女対その他の問題に収斂してしまい、肝心の環境問題がおざなりになってしまいかねません。グレタさんが面白すぎて。

 トランプ大統領プーチン大統領もグレタさんを無視できず国家トップ自らが論評や批判を加え、グレタさんを批判する筋はその欺瞞に憤りを隠しません。ドイツの満員列車に乗って移動する苦労をグレタさんがTwitterに綴ると、それを見てイラついたドイツ鉄道の職員が「親愛なるグレタさん、気候変動と闘っている私たち鉄道労働者を支援してくれてありがとう」「ファーストクラスでグレタさんをもてなした、フレンドリーで有能な弊社スタッフについても触れていただけたら良かったです」と投稿していました。

 それだけでなく、ドイツ鉄道公式アカウントまで「フランクフルト以降はファーストクラスに座っていた」と発表し、省エネルギーを訴え慎ましく移動しているように見せかけたグレタさんが、単なる環境保護推進派のマーケティングツールに過ぎないのでは、というインチキ感までもたらすことになりました。

グレタさんは中国共産党に操られている?

 グレタさんが世界で暴れることそのものを目的として、お金持ちだけど手段を選ばない大人たちがうまい具合にグレタさんを操っているのではないか、と批判をされるのもまた、まあ分からんのではないのです。

 さらには、このグレタさんは日本を含む先進国の指導者に対しては怒りをあらわにしながら環境対策の遅れを指弾する割に、世界最大の二酸化炭素排出国である中国に対しては「途上国である」として特に何も言わないことから、グレタさん周辺にいる「スポンサーの役割も果たす大人」の中に中国共産党の代理人が混ざっているのではないかという憶測まで飛び出す始末です。

 さすがにマズいと思ったのか、グレタさんはなぜか香港デモ問題で香港市民に心を寄せるツイートをして、中国系媒体からたしなめられるというムーブがありました。グレタさんが活動する価値の本丸は環境問題のはずなのに、それについてはいまだに触れずじまいですし、さすがにスポンサーを見透かされてるなあと思うところはあります。

 それは差し引いても、行き過ぎたグローバリズムが引き起こす、人類の活動による環境破壊や大気汚染は深刻だとグレタさんが訴え、その内容が騒ぎになるたび、背後関係は別としてグレタさんの言っていることは正論のためみんな何となく襟を正します。グレタさんに言われたから出張で飛行機に乗るのをやめるかと言われると微妙ですが、せめてマイカー通勤の半分を電車などの公共交通機関自転車などに振り替えてみようかと思う人はいるかもしれません。そういう行動を促す言葉の強さを持つグレタさんについては、引き続き右と左に分かれて議論が起きながらも、「でもやっぱり環境問題って大切だよな」と気づく人が増えれば少しは世の中良くなっていくのでしょうか。

化石賞」受賞に嬉しそうにドヤ顔

 グレタさんに「環境のために鉄道を使え」と言われて、首都圏に住む日本人として「えっ、これ以上この満員電車が混むんですか」と思わずにはいられませんが、そう考えると凄くエコな面もある我が国の環境大臣は小泉進次郎さんです。

 で、その小泉進次郎さん先日「化石賞」を受賞して、まあ要するに環境対策に後ろ向きな連中を馬鹿にする賞なのですが、どういうわけか小泉さんが嬉しそうにドヤ顔コメントをしてました。おい進次郎、おまえナチュラルに馬鹿にされてるんだよ。「ああ、かなり本格的に分かっていないんだな」と思ったりもします。

 しかし、それでもこの人が環境大臣なのには理由があって、衝撃のデキ婚で突然政界のプリンス小泉進次郎さんの奥さんに納まった滝川クリステルさんという風評が微妙な女性がおるわけですけれども、この人がまたカーボンプライシング(≒炭素税)導入を唱えるWWFジャパンの特別顧問なんですよ。

省エネ社会そのものである超満員電車はどうにかならんかなあ

 世界的には、そういう持続可能な社会の実現を目指して化石燃料の消費を抑えるために炭素税を導入しましょう的な議論があるわけですが、我が国においてはもともと山がちな地形で、山の森林や水源を守るための地域環境税が地方自治体などによって導入され、林野庁でも森林環境税が徴収されるだけでなく、地球温暖化対策税(石油石炭税)が環境税として導入されています。

 これらはエンドユーザーガソリン価格などで転嫁されるため、「ガソリン代たけーな」程度に思うことはあっても担税意識は低いかもしれませんが、これもある種の立派な炭素税の趣旨を満たす代替税であるとも言えます。当然、すでにそういう化石燃料の過度な利用に対する制約を設けるかたわら、省エネ社会そのものである超満員電車が大量に走っている日本人の苦労を小泉進次郎さんが国際会議で適切に代弁してくださるわけもなく、もうちょっとどうにかならんかなあと思うわけであります

必要なのは断熱効率のよい家

 その点では、移動する車や火力発電所の問題はありつつも、実際に日本が世界から大きく立ち遅れているのは家屋の断熱でありまして、夏暑く冬寒い日本では、主に西日本を中心に「寒いのは着ればどうにかなるが、暑いのは裸になってもどうにもならない」ということで、湿気の多い日本で家の通気性を重視した家づくりをもって良しとする文化がありました。

 しかしながら、エアコンが各家庭に普及して大正義になっているこんにち、床まで丈のあるカーテンもないような外の暖気冷気をガンガンに室内に通してしまうアルミサッシにガラス窓で暮らしている家庭がほとんどの日本では、欧州のような断熱の効いた暖かい家、クーラーがよく効く断熱効率のよい家に価値を置く、という思想がないのです。 高温多湿な気候で木造が中心の日本で、地震を考慮した家づくりを考えれば、断熱どころではないというのは分かります。結果として、いくら省エネだと車に乗る量を減らしても、家自体が断熱でないのでまったく環境によろしくないという残念な状況にあります。

 このあたりも踏まえて、小泉進次郎滝川クリステル夫妻が生まれてくる赤ちゃんのために断熱効果の強い愛の巣を作りますと言えば、グレタさんに心を動かされる人が出るのと同様「おっ、そうなのかな」と思う人も出てくるんじゃないかと思うんですけどね。二酸化炭素排出を抑えるという点では、よりエネルギーを効率的に使える断熱効果の高い建材を使った家を推進する、ぐらいのことは環境大臣として考えるべきだろうとは思います。進次郎さんはきっと考えないとは思うけど。

 そして、何より日本のエネルギー安全保障において、エネルギーミックス政策の問題点は、福島第一原発事故の教訓が大きすぎて、いまだに国民は原子力発電アレルギーが強いということです。

未来日本人がどうにかするよ、とは言えない

 COPや国連での議論も、結局は二酸化炭素の排出削減を進めましょうという大テーマに戻りました。しかし、二酸化炭素を出さずに十分なエネルギーを国にもたらすためには、原子力発電所に頼るか、超低効率の自然エネルギーを大量に利用するぐらいしか方法がないというのが現実です。

 しかし、大都市圏などで安定的に電力を必要とする以上、どうしても常時電力を発電できるベースロード電源が必要になります。自然エネルギーのように「曇っているので発電できませんでした」「風が吹かないので今日はもう帰ります」という話では洒落にならないので、火力発電所に頼るしか日本には道はありません。

 あるいは、「世界的な二酸化炭素削減の議論に賛同するために、ベースロードを火力から原子力に切り替えます」と言ってその辺を歩いている反原発派を一人ひとり仕留めて鉄腕アトム時代の原子力ばんざい状態に戻すしか方法がなくなってしまう、というのは実に微妙なところです。私自身も、あの事故を見て、また、原子力発電所の使用済み核燃料の状況を知ると、かなり本気で「これは長く時間はかかっても、原子力発電よりも安全に処理できる仕組みに切り替えないと、人間の手には負えないぞ」と思ったりします。そんなもん未来の日本人がどうにかするよ、とはちょっと無責任には言えないよなあという気持ちになるのです。

 私たちが生きていくためにはエネルギーが必要だ、でもそれは環境破壊を伴うのだ、というとき、持続的な社会にしていくためには、エネルギー供給の仕方をどうするのか(火力、自然、原子力)、エネルギー利用の効率化をどうするのか、あるいはみんなで死ぬのか、いずれかの方法で対処していかなければならないのでしょう。

グレタさんは偉い。超偉い。あー偉い偉い

 環境問題では地球全体のことを考えすぎて、どうしても二酸化炭素に目がいきがちなのですが、しかし本当の環境問題とは私たちの目の前にあることが大事です。例えば、超大型の台風が来て大量の雨が降ったとき、私たちはこの環境に対応するため水をどう制御するのか。あるいは、都市部では珍しくなくなった局地的な豪雨への対策や、スギ花粉も含めた山の森の植生をどうするのか、さらには気温が高すぎて都市部ではレタスなどの葉物野菜が高騰して供給不安定になったとき安全な代替品をどこからもってくるべきか。世の中には深刻な問題があり過ぎです。

 そういう問題を全部背負って、ヨットや電車で旅するグレタさんは偉い。超偉い。あー偉い偉い。環境問題に思いつめ過ぎて不安に押しつぶされそうになる前に、環境問題に目覚めた若い男女がもっといっぱい出てきて騒ぎを起こしてくれると、もっと改善のスピードは上がるんだろうか。次はもっと感情的に穏やかな奴を頼む。最近毎日そう思いながら日々を暮らしています。

(山本 一郎)

COP25に参加するためヨットで大西洋を横断。ポルトガルに到着したグレタさん ©AFLO


(出典 news.nicovideo.jp)


(出典 amd.c.yimg.jp)


列車の床に座った写真をSNSに投稿してエコ旅行アピールしていた子供活動家グレタ・トーンベリさんが、実はファーストクラスに乗っていたことをドイツ鉄道がバラしてしまい、ツイッターバトルになった

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